■植物系統分類学研究室
生物科学専攻植物学教室
植物系統分類学研究室
(戸部博、村上哲明、野口順子、東浩司)

 

植物系統分類学研究室では、被子植物を中心にシダ植物・コケ植物を含めた多様な野生植物群を対象として、様々な形質情報(外部形態、解剖学的・発生学的形質、DNA・アロザイム等の分子情報など)を統合的に解析し、それらの進化と多様性の維持機構を明らかにするための研究を進めている。植物群の広がりとともに(図参照)、研究室全体で扱う植物群も多様である。20名を越える教官と学生が以下のような研究テーマに取り組んでいる。(1)ブナ目における受粉・受精機構の多様性と進化の解析、(2)ソテツにおける受粉機構の解析、(3)クスノキ目における生殖構造の多様性と進化の研究、(4)キク属の多様性と種の維持機構の解析、(5)ショウブ属における生殖構造の発生学的研究、(6)チシマゼキショウ属における生殖構造の多様性と種分化の解析、(7)ヤナギ科の多様性と進化の研究、(8)カンアオイ属の多様性と種分化の研究、(9)花の匂いの多様性と種分化の研究、(10)日本の照葉樹の時空分布の解析、(11)ナチシケシダ類の種分化の研究、(12)ジャゴケとヒメジャゴケの種内分化の研究、(13)ノキシノブと近縁種の種分化、(14)南西諸島に分布する植物の地理学的研究。COE推進担当者の一人である戸部の研究課題「花器官の形態を基本とした植物の進化と多様性の機能の解析」に関連した研究の概要を以下に述べる。
 花は被子植物に固有の構造で、被子植物(23万5千種)全体の系統関係が明らかにされた現在、花の進化を辿ることが容易になった。アンボレラ属(Amborella trichopoda)はニューカレドニアに生育する種で、被子植物の進化で最初に分岐して生き残った植物の子孫である。花に雄花と雌花があり、ともに小さく、直径は4〜5ミリ、萼片・花弁の分化はなく、両者を合わせた小さな花被片が10枚前後あり、雄花では13〜19個の雄しべが、雌花では1〜2個の仮雄しべと4〜5個の雌しべ(心皮)がある。現在、この種の花器官の発生を調べ、被子植物の花の原型を探索しようとしている。これとは別に、被子植物全体における花の進化の大きな流れを突き止める一方、原始的植物の一つであるクスノキ目と、最も進化した植物群の一つであるキク目を使って、それぞれの植物群における花の多様性と進化を明らかにしようとしている。花器官の形態に関する大きな進化の方向として、子房上位から子房下位への進化がある。しかしクスノキ目(本来は子房上位)にもハスノハギリ科や一部のクスノキ科、ゴモルテガ科では子房下位が、キク目(本来は子房下位)にもロウセア科の大部分、フェリネ科、アルゴフィルム科の一部では子房上位が記録されている。これまでの研究によって、これらの花の発生を追跡すると、多くの場合、花の発生が進むにつれて、前者では子房上位から下位へ、後者では子房下位から上位へと、子房の位置が二次的に移動していることが明らかになっている。まだ全てが明らかになったわけではないが、子房の移動にはより効率的な種子散布様式の獲得が目的になっているらしく、これによって花器官の形態の多様化には、従来言われてきた送粉への適応戦略だけでなく、種子の散布様式の拡大への適応戦略が存在することが初めて明らかになりつつある。このような新たな研究成果を確実にするために、現在さらにいろいろな植物群における花の進化を研究している。